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「さうだね。まさか医者の家に古障子の玄関といふわけにもいくまいね」
紛まがふことなく、それは神原喜作だつた。
「いためた?」
あるとき一人の女の客が私に話をした。
「ふん」
彼が冠をとると、円味のある顎肉には紐の痕が紅く残つていた。
「うむ、うむ」
それは莫迦げたことにちがひなかつた。だが、その莫迦げた習慣の中に今房一は身を以て入りつゝあるのを感じた。
母家の方には父親の正文がいるのだらうが、ひる寝でもしているのか物音がなかつた。練吉は井戸端へ出て身体を拭くと、居間になつている診察所の二階へ上つて来た。その途中で、看護婦に自転車の鞄を外して、中にある処方の薬をこしらへて置けと云ひつけた。そして、さつき配達されたばかりの前日の新聞をつかむと、腹ばひになつて読みはじめた。
練吉と房一は、川沿ひの路を、肩を並べて自転車を走らせていた。
「さあ、一つ拝見しませう」
「やあ、おいでなさい。わたし、相沢です」
と、きよろりとした目つきに返つた徳次は、立ちはだかつたやうな恰好になりながら、房一の傍に停つて訊いた。
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